空色(全242話)

十和が部屋を飛び出して、もう30分が経つ。
その間、ずっと手の震えが止まらなかった。

妙に静かな店内が、余計に私を不安にさせる。

十和、十和……
早く帰ってきて……

『ゴフッ……ゲホッ……』

と、扉の向こうから聞こえた、むせ返るような声。

聞き覚えがある。
これは……

『幸成くん!』

美香もすぐに気付いたようで、扉を開けて招き入れた。

光の中から、十和と幸成。
2人が入ってくる。

嘘……
一体、どうやって……

『アユ、合い鍵って今持ってる?』

『え? あ、家に……』

思いもよらない質問に、戸惑いながら答える。

『じゃあ後で取りに行くよ』

一体何?
急に合い鍵の事なんて。

『あー…… いってぇ』

と、ドアにもたれたまま、ズズッと座る幸成に、私は目を見張る。

すごい打撲の痕……
直視するのが辛いくらい。

『無茶しすぎだよ。 いくらオーナーがいなかったからって』

呆れたように言う十和。

『どういう事?』

『俺が行った時には、もうやり合ってたからねー』

やり合ってた?

『いつもカウンターにいる人とかは、倒れてたし』

え?
ええ?
それって……

藤原とか、その他の人を倒して逃げてきたって事~!?

『し、信じらんない』

もう目茶苦茶。
どうなっちゃうのよ、これから……

『とりあえず外に逃げよう。 オーナーが気付く前に』

十和は、私の手を強く握り、自分に寄せた。

そうだ、逃げなきゃ。
オーナーが気付いたら、命の保証もない。

『つーか、十和さん。 俺、思ったんすけど』

と、逃げようと決めた途端に幸成が口を開く。

『あんたなら、あのオーナーの暴走を止められるんじゃないっすか?』

……え?

『ねぇ? 唯一無二の、宝物の貴方なら』

どういう……事?

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