空色(全242話)
【宝物の貴方なら】
シンと、静まり返る室内。
誰もが、十和の言葉を待った。
『無理だよ。 あの人は、そんな甘い人じゃない』
核心には触れない返し方。
私と美香は解らなくても、幸成は解ったようで、フッと苦笑してみせた。
『とにかく、行くよ』
片手に私の手。
もう片手で、幸成の体を支え十和は、部屋を出た。
その時だった。
『お前ら、見つけたぞ』
目の前にオーナーが現れたのは……
『立川。 ずいぶん酷い事をしてくれたじゃねーか』
……藤原の事だ。
もうバレてる。
『それに、お前。 ここで何してる?』
オーナーの視線は、幸成から反れて十和に。
鋭い目が、ピクピクと2、3度動いた。
『それはお前の女か?』
なんて威圧感……
とても勝てそうにない。
『だとしたら? 何か問題あんの?』
誰も口を開けない中、十和だけが真っ直ぐにオーナーに言葉を発した。
『はっ、はははは!! 最高だよ十和!』
え?
今オーナー……
「十和」って、ハッキリ……
『散々、毛嫌いしておいて、結局そういう女を選ぶんだな』
何で?
2人は知り合いなの?
『お前の母も美しかった。 その女が少し似ているな。 死んだ母と重なるか?』
延々と続くオーナーの言葉。
十和は黙って聞いていた。
でも私と繋いだ手に力が増して、
痛かった……
死んだ母?
亡くなってるの?
『しかし所詮、その女も売春婦だ。 立川にその女に、そしてお前。 お前らも俺と同じ階段を上ってくんだよ! 上る意味もない螺旋階段をな!』
どういう事?
話が見えない。
『俺は、その階段は上らない。 上ったとしても、俺にはもう頂上が見えてるよ』
十和……
貴方は一体……