空色(全242話)
BabyDollを去った私達に、オーナーは追う事すらしなかった。
どうせ逃げられないと、確信してるんだろう……
『はい、合い鍵』
私の家から持ってきた十和の部屋の合い鍵。
それは、幸成に手渡された。
『どうも』
店内で問題を起こしてしまった幸成は、もう店には行けない。
自分の家にいても安全という保証はない。
……という十和の考えで、幸成はしばらく十和の部屋に泊まる事になった。
さっきまで合い鍵を握っていた自分の手を見ると、妙に寂しい気持ちになる。
また1つ、十和が遠くなった気がして……
『とりあえず、俺は美香ちゃんを送ってきます』
部屋の隅にチョコンと座っていた美香に声をかけ、立ち上がる幸成。
きっと、私達に話す時間をくれたんだろう……
2人が部屋を出てしばらくして、テーブルにコーヒーが出された。
『アユ。 眉間にシワ寄ってるよ?』
十和は軽く笑顔を見せた。
いつもと変わらない様子に、不信感と不安。
十和が悪いんじゃないって、わかってるんだ。
わかってるんだけど……
『大丈夫。 俺の事、隠さず全て話すよ』
『……十和』
知りたいようで、知るのが恐い。
オーナーの言う事なんて信じない。
オーナーの言った事なら、嘘だって否定してやる。
でも、十和の口から言われたら、
私は信じなきゃいけないから……