空色(全242話)

BabyDollを去った私達に、オーナーは追う事すらしなかった。

どうせ逃げられないと、確信してるんだろう……



『はい、合い鍵』

私の家から持ってきた十和の部屋の合い鍵。
それは、幸成に手渡された。

『どうも』

店内で問題を起こしてしまった幸成は、もう店には行けない。
自分の家にいても安全という保証はない。

……という十和の考えで、幸成はしばらく十和の部屋に泊まる事になった。

さっきまで合い鍵を握っていた自分の手を見ると、妙に寂しい気持ちになる。

また1つ、十和が遠くなった気がして……


『とりあえず、俺は美香ちゃんを送ってきます』

部屋の隅にチョコンと座っていた美香に声をかけ、立ち上がる幸成。

きっと、私達に話す時間をくれたんだろう……





2人が部屋を出てしばらくして、テーブルにコーヒーが出された。

『アユ。 眉間にシワ寄ってるよ?』

十和は軽く笑顔を見せた。
いつもと変わらない様子に、不信感と不安。

十和が悪いんじゃないって、わかってるんだ。
わかってるんだけど……

『大丈夫。 俺の事、隠さず全て話すよ』

『……十和』

知りたいようで、知るのが恐い。

オーナーの言う事なんて信じない。
オーナーの言った事なら、嘘だって否定してやる。

でも、十和の口から言われたら、
私は信じなきゃいけないから……
< 224 / 243 >

この作品をシェア

pagetop