空色(全242話)
私はもう、風俗嬢なんかじゃない。
普通の女の子。
お店に行かなくてもいいし、
好きでもない男に抱かれなくていい。
オーナーを追い出すなんて、大それた事は出来なかったけど、これで良かったんだよね?
ねぇ……?
……ユ……アユ……
誰かが呼んでる。
駄目だよ。
眠いもの。
アユ……
返事出来ないよ……?
『アユ!!』
頭にガンと響く声。
空はまだ暗い。
あのまま眠っちゃったんだ。
『アユ! 大変っすよ!!』
この声は、幸成だ。
いつになく切羽詰まった様子に戸惑いながら、玄関を開ける。
そこには冬だと言うのに、汗だくになって荒い息継ぎをする幸成がいた。
『美香ちゃんが消えた!』
……美香が?
『俺、確かにマンションに入るの見たんすよ! でも……ッ』
ゲホッと噎(ム)せて、言葉が止まる。
『でも?』
『タクシーん中に鞄忘れてて、すぐ追ったんすけど…… どこにもいないんすよ!』
何?
一体どういう事?
何が起こったの?
『まさか、美香ちゃん。 オーナーに……』
止めて。
言わないで。
『美香……』
そんなの、考えたくもない。