空色(全242話)


最初、痛かった体も、回数を増すごとに痛みが薄れていった。

『止めて! 止めてください……ッ』

美香の声がする。

『アユが……アユが死んじゃう!!』

そうか。
着々と死に近づいているのか。

痛みを感じないのも、痛覚が麻痺してるんだ。

【助けて】

信吾くん、泣いてたなぁ……

助けてあげたかった。
早苗も、助けたかったよ……



あれ?
ドアのとこに人がいる。

あれは十和?
これは幻覚?

『そこまでだよ』

……幻聴?

『アユを離してもらおうか』

違う。
幻覚でも幻聴でもない!!

『ごめんね? 遅くなって』

優しい十和の笑顔だ。
私がもう一度見たかった顔。

『アユの電話のすぐ後に、幸成くんから電話もらったんだ』

カツン、カツンと、足音が近づく。

『女の子なんだから、無茶すんなよ』

温かい手が、汚い私の血を拭ってくれた。
と同時、麻痺していた感覚が戻る。

触れられた所から、十和の体温を感じるよ……

『そうか。 立川のやつ生きていたか』

クックッと漏れる不気味な声。

なんて冷たい目なんだろう。
人を傷付けるのに、何の躊躇(タメラ)いもないような、冷酷な瞳。

ブルッと1つ、身震いをさせられた。

『あいつも、あの男と同じ場所に入れてやろうと思ったのにな』

……あの男?
それは、一体……

『いいか、十和。 全てお前のためだ。 お前が俺のようにならないように……
 あの男のようなクズに、大事なもんを盗られないように』
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