空色(全242話)
『退院、おめでとう』
一足先に退院が決まった幸成が、十和の病室へ挨拶に来たのは、十和が入院してから10日目の事。
まだ傷の残る体を支えるよう、隣には美香が……
数週間前とは少し雰囲気の違う2人に、十和と私は目を見合わせ笑ってしまった。
『少しずつ、美香ちゃんの良さを知っていこうと思ってさ』
はにかんだような笑顔は、見た事もない。
きっと上手くやっていけるだろう、と思った。
『私ね。 お母さんに全部話そうと思ってるんだ』
2人の背中を見送りながら、十和へ告げる。
『仕送りはお父さんじゃなく私って事。 どうやって稼いだか…… それと、十和に救われた事も』
それで軽蔑されても仕方ない。
ショックで泣いてしまうかも知れない。
元々が家出同然だったのだから、もう会ってもらえないかも知れない。
でも、ちゃんと話して、十和と2人で生活する事を伝えたいんだ。
許されなくてもいいから、知っててほしいんだ。
『仕送りの事、お母さんは気付いてるかもね』
優しい笑顔を見せ、十和が言った。
『うん…… 私が家を出てから始まった仕送りだもの』
気付いてるかも知れない。
遠慮がちなお母さんだもの、もしかしたら使ってないかも。
それでも、
『育ててくれたお母さんに、恩返ししたかったの』
少しでも、贅沢をさせてあげたかったの。
『じゃあ、アユには俺が恩返しするよ』
『え? 恩返し?』
何それ。
私、何もしてないのに?
『俺をここまで動かしてくれたアユに恩返し。 アユがいなかったら、まだあのオーナーに従ってた』
そんなの、私のおかげじゃない。
十和が強かったから、幸成が勇敢だったから……
『アユを幸せにするよ? 精一杯に……』
「まだ本調子じゃないけど」
そう笑って、十和は優しいキスをくれた……