空色(全242話)
空は灰色。
ひんやりとした世界に白い息が栄える。
18で夜の仕事に飛び込み、もうすぐ2年。
毎年の如く厳しい冬が来る。
そして、こうして美香と仲良くするようになって、1年が経とうとしていた。
『アユ、おっそーい!』
黒いセダンの後部座席の窓が開き、美香がふて腐れた様子で言う。
運転手は先程の新人。
運転席から出ると、私のために後部座席のドアを開けてくれた。
『どうぞ?』
男は得意げな笑みを浮かべ、私の腰に手を回す。
『……どうも』
生暖かく湿気を帯びた掌(テノヒラ)が腰骨を包んだ。
古い手を使う男だ。
今時、痴漢しか使わない。
『ねー、新人くん! 名前は何ていうの?』
車が動き出してしばらくした頃。
美香が助手席のシートを抱きしめるようにして男に話し掛けた。
『立川幸成っていいます。 幸せが成り立つって漢字でー……』
『そーなんだぁ。 私は美香ね! 美しい香りって書くの』
どうした事だろう。
美香は幸成の横顔を、首を傾け見つめる。
そんな彼女の姿を見たのは初めてだ。
『ぴったりですねー。 アユさんは?』
幸成はバックミラーに映る私と目を合わせ、ニッと不敵に笑った。
『そういえば私も知らなーい! アユってどう書くの?』
美香もグルンと顔の向きを変え、私の顔をジッと見た。
『別に、平仮名だよ』
私が期待に反する答えを返すと「なーんだ」と2人共、脱力する。
自分の名前を誰かに教える事は好きじゃない。
アユなんて平仮名でいい。
漢字なんて要らない。
だってあまりにも似合わないんだもの。
ひんやりとした世界に白い息が栄える。
18で夜の仕事に飛び込み、もうすぐ2年。
毎年の如く厳しい冬が来る。
そして、こうして美香と仲良くするようになって、1年が経とうとしていた。
『アユ、おっそーい!』
黒いセダンの後部座席の窓が開き、美香がふて腐れた様子で言う。
運転手は先程の新人。
運転席から出ると、私のために後部座席のドアを開けてくれた。
『どうぞ?』
男は得意げな笑みを浮かべ、私の腰に手を回す。
『……どうも』
生暖かく湿気を帯びた掌(テノヒラ)が腰骨を包んだ。
古い手を使う男だ。
今時、痴漢しか使わない。
『ねー、新人くん! 名前は何ていうの?』
車が動き出してしばらくした頃。
美香が助手席のシートを抱きしめるようにして男に話し掛けた。
『立川幸成っていいます。 幸せが成り立つって漢字でー……』
『そーなんだぁ。 私は美香ね! 美しい香りって書くの』
どうした事だろう。
美香は幸成の横顔を、首を傾け見つめる。
そんな彼女の姿を見たのは初めてだ。
『ぴったりですねー。 アユさんは?』
幸成はバックミラーに映る私と目を合わせ、ニッと不敵に笑った。
『そういえば私も知らなーい! アユってどう書くの?』
美香もグルンと顔の向きを変え、私の顔をジッと見た。
『別に、平仮名だよ』
私が期待に反する答えを返すと「なーんだ」と2人共、脱力する。
自分の名前を誰かに教える事は好きじゃない。
アユなんて平仮名でいい。
漢字なんて要らない。
だってあまりにも似合わないんだもの。