空色(全242話)
14歳の夏、友人達と少し遠くの海に行った。
海の家で水着に着替え、海に出る。
今日のために新調したピンクのビキニは、色白の豊満な胸には、少し子供っぽく似合わないようだ。
「失敗したな」
そう思いながら、上着を羽織る。
そんな私を友人の1人が覗き込んだ。
『アユ、いーなぁ!』
突然、そう言うと少し憂鬱そうに私と自分を見比べた。
『胸大きいし、でも痩せてるし』
確かに痩せているわりに胸は大きいと思う。
顔だって、二十歳の今とあまり変わらない。
たまにいる大人っぽい中学生。
悪く言えば、老けていたのだろう。
だからだ。
だから奴は私に声を掛けてきた。
『可愛いねー。 どっから来たの?』
切れ長の目に筋の通った鼻。
第一印象は「パパに似てる」だった。
大好きなパパに……
だから安心しきってしまったのだ。
その日、私は初めて男を知った。
引き締まった体を。
荒々しさを。
剥き出しの欲望を。
『ごめん。 これで勘弁して』
そして手に入れたのはボロボロの一万円札。
『アユ? 何そのお金』
奴に置き去りにされ、友人達の元へ戻った私に、皆は声を上げた。
手には中学生に似合わない一万円札。
しかも財布に入れる事なく、生身のままで。
怪しいにも程がある。
『貰ったの。 さっきの人に……』
上手い言い訳もなく。
それだけを小さく答えた。
『ヤバくない? それって援交だよね?』
そこから全てが始まった。
今の「アユ」はこの日、産まれた。
奴から貰った一万円札は今もまだ家にある。
擦り切れて今にも破れそうな、そのお札は、まるであの日の自分を見ているようで、
時折、胸が苦しくなる。