空色(全242話)
体を売ったという事実は、どんな弁解をしても説明をしても、消える事はなかった。
それどころか皆、私を笑った。
何がそんなに面白いのか。
人は自分と少し違う存在を見るだけで、目の色を変える。
悪かったな。
売春少女で。
『アユ。 今日、先生から電話があったわ。』
学校を休みがちになった私に母親は、次第に鋭い目を向けるようになっていた。
『無断欠席なんて、どうしてそんな事したの!』
他人の白い目。
笑い声。
ただそれを感じるために行く学校。
私を見世物にする腐った世の中。
まともに過ごせるわけがない。
『うぜーんだよ、クソババア』
私は、弱かった。
強がらなきゃ生きていけない程、弱かったんだ……
高校は、ろくでもない馬鹿校へと進んだ。
休みがちだった私に学校を選ぶ権利なんてなかったから。
生徒に黒髪なんて1人もいない。
皆、原型をとどめない派手な化粧にクルクルに巻かれた金髪。
男子も、腐った若者しかいなかった。
『ねー、ヤラしてよー』
隣の席の男子はいつも声を掛けてきた。
もはやそれは「おはよう」の代わりぐらいに。
『やんないし。 マジしつこいよ?』
男とは目も合わせた事がない。
名前だって今となっては覚えていない。
『拒否ってんじゃねーぞコラ。 援交女がよー』
でも忘れたりはしない。
あいつの台詞と。
薄汚い性欲。
《放課後、裏庭に来て下さい。 大切な話があります》
差出人不明の手紙。
まんまとハメられた。
ハメられて、ボロボロにされた。
忘れはしない。
裂ける痛み。
背中に感じる土の冷たさ。
生い茂る草の香り。
泣いて叫ぶ私を嘲笑った、奴の顔。
今も鮮明に覚えてる。
そして私は、短い高校生活を終えた……