空色(全242話)
高校を辞め、ただ何となく生きていた頃。
両親が言い合う姿をよく目にした。
大概、私の教育についての話だった。
『アユをどうするの!? 貴方の子供でもあるのよ?』
ある日の晩だった。
『お前が見るべきだろう。 お前が産んだんだ』
2人は長い時間、話し合っていた。
内容は私の親権について。
足が石になったかと思うくらい重くて、動けなくて、
聞きたくもない話を聞いてしまった。
『二度と、アユの前に現れないで』
父は私を捨てた。
当たり前の顔をして。
知らなかった。
父がこんな冷たい顔をするなんて事。
幼い頃から父を慕ってきた私。
父に似た人に体を許した私。
馬鹿で阿呆で、愚かだった。
所詮、父もただの男だったのだ。
『アユ。 2人で頑張っていこうね?』
母は気丈に振る舞った。
私に心配かけまいと。
でも私は知っている。
2人の別れの原因に私という存在がある事を。
父は、クズに等しいこんな私を傍に置きたくなかったのだろう。
男とはいい気なものだ。
妻を捨て、子を捨て。
養育費さえも払わずにいる。
私と母の暮らしは決して良いものではなかった。
月末は具のない味噌汁にご飯を入れて食べた。
肉なんて給料日にしか食べた事がない。
魚は幸い、知り合いの漁師に譲ってもらったが、それも数少なかった。
父は今頃、何を食べているのだろう。
温かい部屋にいるのだろうか。
そう思うと、憎くて堪らなかった。
そして見つけたのだ。
母と2人で裕福に暮らしていける術を……
『ホステス?』
『そう。 嫌な事は一切無しの健全なクラブ!』
それが、永い夜の始まりだった。