空色(全242話)
始まりは小さなクラブのホステス。
店にいる全ての人間の顔と名前を2日で覚えられる程、少人数で経営していた。
お客さんは皆、いい人ですぐに馴染めた。
指名だって誰にも負けないくらいとれた。
だからだろう。
私はあの店から排除されてしまった。
『生意気なのよ、あんた。 新人のくせに』
目立ちすぎた結果だった。
女も男も同じ人間。
結局、自分が一番大事なのだ。
店を追い出され、稼いだ金を持って街を出た。
外は寒く、恋人達が腕を組んですれ違っていく。
恋人達の進む先に幸せはあるのだろうか。
一生続く愛なんてあるのだろうか。
幼い頃見た両親の姿を想い、目頭が熱くなった。
そんなものは無い。
人がいずれ死ぬように、
愛も終わっていくものだと。
冷たいアスファルトを踏みながら思った。
仕事がなくなって数日経って、持っていた金が尽きた。
母を食わすどころか、自分さえも食っていけない。
ちっぽけで力無い自分を情けなく感じた。
片親いないだけで、こんなにも惨めな生活をしなければいけない。
所詮、私は何も出来ないただの子供だったのだ。
ある寒い夜の事だった。
『君。 うちで働いてみない?』
初めて藤原と言葉を交わしたのは、駅のすぐ傍。
真っ黒な服に身を包み、藤原は優しい声で私を誘う。
『お客様を楽しい会話でもてなす簡単な仕事だから。 君なら驚く程、稼げると思うなー』
「会話でもてなす」
クラブかキャバクラだと当初は思った。
まさかヘルスだったなんて、
思いもしなかった。
『さぁ… 君の技術を見せてくれ』
気がついた時にはもう遅く、
私はオーナーの沢山ある玩具の1つと化した。
遊びたい時に遊び。
遊び尽くした玩具は、壊れて捨てられる。
まさにそこは地獄だったのだ…