空色(全242話)

暗闇に建つ、コンクリ造りの灰色のアパート。
それが私の今の家。

内装は1DK。
4畳のダイニングキッチンに6畳の洋間がある。

お客さんなんて滅多に来ないし、来たとしても美香だ。
狭いと思った事はない。

『ただいまー』

狭い玄関で靴を脱ぎ捨て、鞄も上着も適当な場所に放り投げる。

誰もいない。
誰も来ない。
荷物がどこにあったって誰も文句なんか言わない。

気楽といえば気楽だが、寂しいというのも嘘じゃなかった。

小さな冷蔵庫を開け、酎ハイを選ぶ。
今日はスッキリとレモンがいいかな。


いつものようにソファーに座り、酎ハイを飲む。
そして携帯を開いて明日の天気予報を……

『あ……』

「着信あり」の文字に指を止めて、携帯の画面をジッと見つめる。

【一緒に見よう、青空を】

そう言った「あの男」からの着歴だった。

初めてだ。
あんなふうに言ってくれた人は……

客に気に入られ、アドレスを聞かれた事は何度かあった。
でもそれは店を通さずに直接、私と取引をしたいためのもの。
所詮、性処理の道具としか思われていないのだ。

【俺からは連絡しない】

あの言葉は嘘じゃないと思う。
だって私は発信履歴から自分の番号を消してしまった。

十和が私の番号を知る術は一切無い。
連絡を取りたくても取る事は出来ないはずだ。

『青空、かぁ……』

雲一つない空。
一体、どんな色だろう。

「青空」と言うくらいだ。
きっと青色なんだろう。

この、まだ登録されていない番号に電話したら、見れるんだろうか。
目を奪われ、言葉失う程、綺麗な空色が……

本当に、
連れていってくれるんだろうか……
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