空色(全242話)
時は夕刻。
空はグレイに霞む。
自動扉を通り、私は赤いATMの前に立った。
ATMから流れるガイドを聞く間もなく、操作していく。
目的は母、里崎寛子(サトザキ ヒロコ)への振込み。
依頼主の名前は渡来相馬(ワタライ ソウマ)
私の父の名前だ。
画面の少し上にある出口から明細が静かに出る。
そのペラペラの紙を半分に折ると、ポケットに突っ込んだ。
母は、私の名前で振り込まれたお金など、受け取らないだろう。
現にまだ私がホステスのバイトを始めたばかりの頃、少しだけ渡したら突っ返されてしまった。
だから私は、父の名前を借りる事を決めた。
父からなら、単純に養育費やら生活費やら……
お金を貰う理由はいくらでもある。
実際は一円も支払っていない父を想い、母は感謝し涙するんだろう。
そう思うと少し複雑で、悔しい気持ちになった。
残ったお金で家賃を払い、美香と食事し、
そして少しだけショッピングをする。
何を買おう。
この間、駅前で見たワンピースが可愛かったな。
でも今より少し小さな鞄も欲しい。
女の子なら誰でもする当たり前な事。
そんな事が私にとっての幸せだった。