空色(全242話)

『おはようございます』

夜になり、店に出た私は、受付けで居眠りしている藤原の横を通り過ぎた。

どうやら今日は暇らしい。

基本的に私達、女は指名が無ければ仕事がない。
今日はゆっくり美香のくだらない話を聞こう。

そう決めて、店の奥へと進む。
美香の顔を思い出して、つい笑みが漏れてしまった。


『おっはよ、アユ!』

休憩室に入ると同時、満面の笑みを浮かべた美香が見えた。

『ねぇ、聞いてー! さっきコンビニでパン買ったんだけどさ』

美香は「待ってました」と言わんばかりに話し始める。
既に周りには数人の女の子がいた。

皆、美香の次の言葉を待っているようだ。

『店員さんがお釣り間違えちゃったから、私が計算して教えてあげたの。 そしたら買ったパンをレジに忘れてきちゃって……』

突然、ドッと笑いがおきる。
美香の話はいつもくだらない。
くだらないけど面白い。

面白いから、こうして人が集まるんだ。
私とはまるで正反対。

美香を好きな人は数え切れない程いる。
私も美香が大好きだ。

だけど私は……
私を好きな人は、何人いるのだろう。
いないに等しいんじゃないかって、すごく思う。

せめて、美香には好かれていたいなと、
そう思った。

『あ、そうだ。 アユに渡したい物あったんだ』

ふと思い出したように美香は鞄に手を突っ込んだ。

何が出てくるのだろう。

音はチャリチャリと高音。
プラスチックじゃない。
金属?

『はい! プレゼント』

満面の笑みと同時に出されたのは、シルバーのチェーンにキラキラ光る水色の石がついた……

『ストラップ?』
『そっ! 私とお揃いだよ』

そう言ってキラキラとデコレーションされた携帯を見せる美香。

美香の方はピンク色の石がついていた。

『うちら仲良くなってもうすぐ1年だし、その記念って事で!』

ヘヘっと笑う美香が何とも言えない可愛さで、つい笑みを漏らしてしまう。

『ありがとー、美香』

本当に本当に大好きで。
大切な親友。

美香がいれば何も恐くはなかった……
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