空色(全242話)
キラキラと光を反射させるストラップ。
私の宝物になった。
美香から貰った大切な宝物……
『お疲れ様です』
午前0時。
着替えを終え、外に出た私に1人の男が声を掛ける。
確かこの人は、
『家まで送ります。 乗ってください』
立川幸成。
あの新人だ。
『ありがとう』
どのみちタクシーを拾うつもりだった。
手間とお金が浮いたと思いながら、幸成の車に乗る。
車内はウルトラマリンの香り。
それに煙草が混じって、
妙な匂い。
『今日はどうでしたー? たくさん稼げました?』
幸成は足をブレーキからアクセルに移動させて言う。
車は緩やかな坂を転がるように、少しずつ勢いを増した。
「たくさん稼ぐ」なんて、イヤミみたい。
『普通。 いつもと変わんない』
『そーっすかぁ。 俺も客になりたいですねー』
ハハッと笑う。
だったら初めから客として店に入ればよかったのに。
そう思ったが、言葉には出さず止めておいた。
『俺、絶対指名しますよ? アユさん可愛いから』
妙にカンに障ると思った。
この人、あいつにそっくりだ。
高校生の時、隣の席にいたあの男に……
言葉の返し方。
笑い方。
何気ない所があいつと重なる。
『もう喋んないで。 眠いから』
そう言えば、奴の香水もウルトラマリンだったっけ。
雨上がりの土の匂い。
生い茂る草たちが揺れる。
貫かれた痛みに混じる、ウルトラマリンの香り。
忘れようとしても、また蘇る。
憎い。
憎くて堪らない。
私の頭の中で何度あいつを殺したか。
消しても消しても、消えない。
幸成のせいで、また思い出してしまった。
また、消さなきゃ……