空色(全242話)

空は夜に変わる手前。
グレイに霞み、厚い雲が月を隠す。
肌寒い風が草花を揺らした。

『ねー、幸成くん』

店に向かう車の中。
美香は運転席と助手席の間に顔を出して言った。

『何で黒服なんかやってんのー? 給料少ないでしょ、仕事のわりに』

興味か趣味か。
美香は幸成に問い掛ける。

『俺、朝苦手で、夜の仕事探してたら黒服くらいしか無かったんすよ』

『えー、単純~!』

確かに単純にも程がある。
単純さ故に、こんなろくでもない所へ来てしまった。

『でも私も単純なんだけどね! お金欲しさに働いてるし』

美香はハハッと笑うと私の顔を見た。

そうか、私達も同類か。

金目当てでここにいる。
目的はどうであれ、単純に変わりない。

『でもすごいっすよね。 知らない人の相手すんのに抵抗ないんすか?』

幸成はそう言って車を止める。
正面の信号は青から黄色に変わっていた。

『あ、でも自分も気持ちくて、金も入るんだから楽勝か』

ハハハと笑って爪を噛む。

馬鹿じゃないか?
この男。

私達がどんな思いをしているか。
想像した事も無いらしい。

『もー、幸成くんってば!』

と、沈黙を破ったのは美香だった。
美香は少し困ったように眉尻を下げ笑う。

『気持ちいばっかじゃないよー! 下手な客もいるし、ってか臭い人とかもいるんだよ!』

精一杯なんだろう。
美香は早口でそれだけ言うと、目を伏せた。

『マジですかー? その場合って、やっぱ洗ってあげたりするんすか?』

しかし構わず返答が返る。
無神経にも程がある。

もう限界だ。

『本気で楽勝だと思ってんの? だとしたらアンタ相当やばいよ。 無神経だね』

私はこういう男が大嫌い。

『降ろして。 歩くから』

声も聞きたくない位に。
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