空色(全242話)

【抵抗ないんすか?】

もう自分でも認めてるみたい。
薄汚くて気持ちの悪い仕事だって。

だから奴の質問に怒りを感じてしまったのだ……



『あ、アユちゃーん!』

徒歩で数分。
ようやく店に着いた私に1人の男が声を掛ける。

『……袋井さん』

あのマザコンオヤジだ。

『今から入るの?』

袋井は満面の笑みで尋ねる。

『うん。 袋井さん、今日は?』

『もちろんアユちゃんのために来たんだよ』

残念だ。
今日は早速、仕事が入ってしまった。

私のためを思うなら、声を掛けないでほしかったな。

……なーんて。
とても口に出せないけど。

『嬉しー。 待合で待ってて!』

袋井にそう言って、私は店の中へ入った。

まだ美香は来ていないようだ。

幸成と車で来るわりに遅いな。
少し疑問に思ったが、時間が無いので先に待機室へ向かった。



『やっぱアユちゃんが一番なんだよね……』

部屋入りするとまず袋井の話を聞かなければならない。
大概が私を大絶賛する内容だ。

『舌の使い方。 目線の運び方。 もうプロだよ!』

ほら今日も。
というか、私はプロじゃない。
まだ1年足らずの新米に過ぎないんだけどな。

『本当、アユちゃんといると癒される。 僕の母親がアユちゃんと似ててね』

短いのだけれど、長ったらしく感じる内容。
もう何度も聞いた。

聞く度に思うよ。
「自分より若い女に母親を重ねるな」って……

こっちまで近親相姦してるみたいな気になって、なんかキモい。

『もう時間が勿体ないですよ~。 シャワー行きません?』

まだ何か話す袋井の腕に絡み付き、顔を見上げる。

小太り、もっさい髪型。
何となく匂う加齢臭。

『も~。 アユちゃんはせっかちなんだから!』

風俗に来る男に期待はしてないけど。
これは本当に「ハズレ」だと思った。
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