空色(全242話)

眠れない夜だった。
目を閉じると、真吾くんの姿が蘇る。

文字通り、瞼(マブタ)に焼き付いてしまったようだ……




次の日の開店前。
私達、従業員は広い待合室に呼び出されオーナーを待った。

真吾くんの事があるからだろうか。
早苗は部屋の隅に置かれたソファーに座り、ずっと俯いたままだった。


しばらくしてオーナーが現れた。
その後ろからは黒服の男達が……

『きゃ……ッ!?』

誰かが悲鳴を上げる。
無理もない。

男達が、力無くうなだれた人間らしき物体を引きずり、ホールの真ん中で手放したのだから。

それが何か確認しなくても、私にはわかった。

だって昨日見たまま……

いや、もっと酷くなっているかも知れない、真吾くんの姿だったから。

『ッ真吾!!』

早苗はバッと立ち上がると、床に転がった真吾くんに駆け寄る。
しかしハイヒールが邪魔で転んでしまった。


『お前ら、ちょっとたるんでんじゃねーのか?』

低く太いオーナーの声が響く。

『誰がこんな事していいって言ったよ。 誰が恋愛許したよ! 愛だの恋だの言ってっから客が満足しねーんだ!!』

売り上げが悪い月と重なってしまった事。
相手が店の従業員だった事。

早苗は運が悪かった……

『他にいねーだろうなぁ?! 掟破りの馬鹿がッ!!』

オーナーはそう言って、すぐ傍にいた女の子の髪を掴む。

女の子は消え入りそうな声で「いません」と鳴いた。

皆、恐怖で逃げる事も出来ない。
同じ人間のはずなのに、まるで獰猛(ドウモウ)な肉食獣に睨まれたようだ。


『おい、お前』

と突然、オーナーの視線が私と合う。

『え……私、ですか?』

それだけで、声が震える。

『そうだ。 昨晩、お前の所に真吾が行ったらしいな』

確かに来た。
でもあれは偶然、私があの部屋にいただけで……

『お前も真吾の女なんじゃないか?』

『そッ そんなわけありません!』

そんなわけ……ッ
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