空色(全242話)
ザァーー…
止まない雨の中。
私達は、もう使われていない古いバス停で、衣服についた雫を払った。
『びっしょびしょ!』
プハッと笑う十和。
びしょ濡れはお互い様。
十和だって、髪から雫が垂れている。
『拭いたら? 風邪ひくよ』
私は鞄からハンドタオルを出すと、十和の髪をタオルで撫でた。
ダークブラウンの髪。
地色だろうか。
とても綺麗で痛みがない。
前髪を滑り落ちた水滴は長い睫毛の上へ……
あまりに綺麗な光景で、目が離せなかった。
『アユ』
と、突然呼ばれ、ハッと我に返る。
『これからどうする? びしょ濡れだし帰る?』
そうか。
こんな姿じゃお店にも入れない。
かといって雨が降っていたら、外にもいられない。
帰るのが自然、か。
『そうだね。 仕方ないけど』
少し驚いている。
何故か名残惜しい、などと思ってしまった。
もう少し話していたい?
そんな馬鹿な。
私と十和はそんな甘い関係ではないのに。
『仕方ないって、まだ帰りたくないって思っていい?』
声に出してしまったかと思うくらい的確な十和の言葉。
一瞬、心の中がつつ抜けではないかと疑ってしまった。
『どうせびしょ濡れだしさ。 派手に遊んじゃう?』
『え?』
遊ぶ?
一体、何処で何を?
『どこにも入れないよ? この格好じゃ』
私は、びしょ濡れになったTシャツの裾を持って言う。
濡れたTシャツが肌から離れる感覚が、何とも言えぬ心地の悪さだった。
『だから海行こうよ。 どーせ濡れてんだからへっちゃらだって』
ニカッと無邪気に笑う十和に対し、開いた口が塞がらない私。
濡れてるからって、海なんか、
もっと濡れてしまう。
いや、これ以上は濡れようがないか。
『うん。 行ってみる』
これは完全に十和の笑顔に釣られた。
馬鹿で無邪気な奴の笑顔に……