空色(全242話)
6畳1間の小さな箱。
決して綺麗とは言えない古い外装。

せめて内装だけはと可愛い雑貨を置いてみるが、それは余計に、部屋の狭さを強調してしまった。

『おじゃまします』

そんな私の部屋に十和のような長身の男性は、やっぱり不自然だった。
妙に天井が低い気がする。

『紅茶は砂糖入れる?』

わずか4畳程しかないキッチン。

小さなテーブルの上にある電子ケトルにスイッチを入れ、十和に尋ねた。

『砂糖はいいや』

『了解。 今、着替え出すから』

狭いのもある意味、便利だ。
欲しい物に、すぐ手が届く。

ケトルからクローゼットまで。
その距離は3m程しかない。

「着替え」といっても男の服があるわけじゃなかった。
確か、大きめのジャージがあったような……

『あった』

クローゼットの奥に永い間、眠っていたジャージ。
短い高校生活で身に纏っていたものだ。

『はい、小さいかも知れないけど』

十和にそれを渡し、自分も着替えを出す。
いつも着ているルームウェア。
温かいし楽だし、いい買い物をしたと思っている。
おまけに値段も、お求めやすいお値段だった。

濡れている服を脱ぎ、タオルで髪を拭く。
幸い下着は濡れていないようだ。

ルームウェアを手に取ったところで、先程スイッチを押したケトルから、湯が沸いた事を知らせる電子音が鳴った。

急いでルームウェアを着てキッチンへ顔を向ける。
そんな私の視界の隅にまだ着替えを済ませていない十和が映った。

『何? その顔』

よく見れば顔は真っ赤。
顔どころか耳まで赤く染まっていた。

『目の前で脱がれたら、そりゃ動揺すんだろーが……』

もしかして私が下着だけになったから?
それでそんな顔に?

『いつもお店で見てるじゃん』

どちらかと言えば、お店にいる時の方が下着に気を使っている。

色や柄、装飾や形など。
お客さんが脱がしたくなるコスチュームを用意しているのだ。

『店のは衣装だろ。 今のはアユの自前って感じで、妙にやらしい』

真っ赤にしてそう言う十和がとても年上に見えなくて、
何だか彼をそんな風にした優越感を感じて、

もう少し意地悪してみたいと思ってしまった。
< 70 / 243 >

この作品をシェア

pagetop