空色(全242話)
温かい紅茶を飲み、前日に食べかけにしておいたポテチを2人で片付け、気が付けば外の雨は上がっていた。

脱いで洗濯して部屋干ししておいた十和の衣類はヒーターの上で乾きつつある。

『もう少ししたら乾くと思うよ』

乾きの悪いジーンズにヒーターの温風があたるよう、風向きを変えて言う。

『ありがと。 乾いたら俺行くね』

携帯の画面に映る時刻を確認し応える十和。

【アユを帰したくない】

そう言ったくせに自分はあっさりと帰ってしまうのね。
まぁ、どうでもいいのだけど。

そう思いながら机に置かれた空の食器やポテチのゴミを片付ける。

仕上げにウェットティッシュで机を拭いていると、十和の手が私の手に重なった。

『何?』

大きくて筋のハッキリした手。
でも恐くはない。

『今日は帰るけど、また誘っていい? 今度は晴れた日に』

少し照れ臭そうに笑うその顔から目が反らせない。
まるで全てを見透かしているように澄んだ瞳。

気が付けば私はコクンと頷いていた。

『やった! じゃまた連絡するね』

無邪気な笑顔。
今日、何度目だろう。

この子供のような顔は。
本当によく笑う。


しばらくして服が乾くと、十和は着替えて帰る仕度を始めた。

丁寧にティーカップを洗い脱いだ服はきちんと畳む。
最後に着てきた上着を羽織って玄関へ向かった。

『じゃあまた』

玄関でもまた笑顔を見せてくれる。

『バイバイ』

私も微笑みを返し彼を見送った。

十和の出ていった扉に鍵をかけチェーンに手を伸ばす。

今日は青空を見た。
男の人と手を繋いだ。
何故かドキドキしてしまった。

私は最後、彼に何と言った?

バイバイだった。

違うだろ。
もっと他に言う事があるはずだ。

『十和!』

急いで部屋へ走りベランダへ出る。
幸いまだ姿は見える。

『ありがとう! 今日、楽しかった』

駅の方向へ道を歩く十和へ、精一杯の声を出す。

どうか届いて……

『アユ』

声が届いたのか、十和は振り返り満面の笑みを見せる。

『俺もすっげー、楽しかった!』

そしてそう言ったのだ。

不思議だ。
十和の笑顔が頭から消えない。
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