空色(全242話)
振り向いた美香は、驚きを隠せないようで、目を真ん丸にして私を見た。
『幸成がさ、そんなような事を言ってて』
そんな美香の表情をまともに見れなくて、視線を美香の胸元へずらす。
どうか笑って。
笑って「馬鹿ね」と言ってほしい。
『そっか、幸成くんが……』
否定しないの?
してくれないの?
『かも知れない。』
と小さく一声。
美香は否定ではなく、肯定(コウテイ)を示した。
そして言い切ったのだ。
『ううん。 アユは親友だからきちんと伝えたい』
美香の見せた女の顔。
そして私を信頼しきった真っ直ぐな瞳(メ)。
『私、彼が好きなの』
自分の耳で聞いたその言葉を、現実として受け止める事が出来ない。
ドラマや何かを見ているような、
そんな気がしてしまった。
『彼もね。 私の事、気になってるって言ってくれてね』
目を伏せ、頬を赤らめる美香。
長い睫毛(マツゲ)の下には影が出来ていた。
『この仕事始めてからは、こんな気持ち忘れてた。 幸成くんの一言一言にすごくドキドキするの』
歯の浮くような台詞。
美香だから似合うのだろう。
『アユも応援してくれる?』
ようやく私と目を合わせた美香は、そう言ってニコッと笑った。
応援?
応援してどうなるの?
藤原にバレたらどうするの?
そんなの絶対に駄目だ。
認められるわけがない。
『許さない。 絶対に』
そう言うが先か。
私は美香から逃げるように、店の外に飛び出した。
冷たい風が頬を撫でた。
なんだかいつもより風が冷たい?
いや、違うか。
頬が濡れているからそう感じるんだ。
『……ッ美香』
このみっともない涙を美香に見られなかった事が、せめてもの救いだと思った。