空色(全242話)

美香を失いたくない。
今の私は、それしか思っていなかった。

【力ずくで手に入れるよ】

そう言った幸成。
「力ずく」というのは、こういう事だろうか。

奴は私の弱い部分を知っている。
私が美香を、放っておけない事を知っているんだ。

まんまとやられた……

『アユ?』

入口前にしゃがみ込む私の耳に、穏やかな優しい声が響く。

『何やってんの?』

聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには昨日も見た十和の顔があった。

背景は満天の星空。
こんな綺麗な夜空は久しぶりに見た。

『……そっちこそ。 来るペース早過ぎ』

『いや、今日は通りがかっただけ』

十和はそう言うと、私の前に同じように座った。

『俺ん家この近くって言ってなかったっけ? 帰り道なんだ、ここ』

十和が笑う。
それだけで、冷たい風を感じなくなる。

透明な見えない壁があるみたいに、暖かいんだ。

『ってのは半分嘘』

『え? 嘘?』

『本当はここより一本向こうの通りの方が早く着くんだけど』

言葉を止め、私の目を真っ直ぐに見る。

その真剣な眼差しに目が離せなくなってしまった。

『毎日ここを通るようにしてたら、偶然でも、アユに会えるかもって思ったんだ』

これは口説き文句?
それとも自然と出た本心?

どちらにしろ、人を揺さぶるのが上手い男ね。

こんなふうに言われたら誰も軽く流せないだろう。
もちろん私も。

【幸成くんの一言一言にドキドキする】

違う。
私は恋じゃない。

ただ十和が馬鹿みたいに恥ずかしい事を言うから、
ただそれだけだ。

『本当に会えるとは思ってなかったけどさ。 会えて嬉しい』

でも、この止まない胸の高鳴りは……?
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