空色(全242話)

「バイバイ」
寂しそうに去っていく、十和の後ろ姿が忘れられない。

首が隠れる程度に伸ばした襟足や、ヘアワックスで立たせたトップも少し元気がないように潰れて見えた。

十和が見えなくなった後、また冷たい風が強く吹いた。

風を跳ね返していた透明な壁は、十和と一緒に消えてしまったんだな……
そんな馬鹿な事を思っていた。


『アユちゃん、どこにいたの? ずっと探してたんだよ』

店内に戻ると、藤原が私を見つけて言った。

『さっきからお客様が待ってるから、早く用意して』

背中をドスドスと押し、待機室へと向かわせる。

『美香は?』

去り際にそう尋ねると、藤原はプレイルームを指差して笑った。

よかった。
しばらく会わずに済む。

気持ちの整理をつけずに会えば、また変な事を言ってしまいそうだったから……



『ご指名ありがとうございます』

部屋に入ると、ベッドには少し若い男が座っていた。

見た事のない顔。
きっと新規の客だろう。

『アユです。 よろしくね?』

満面の笑みを見せ、男の隣に座る。

『本もよかったけど、実物の方が何倍も可愛いね。 アユちゃん写真で損してるよ』

本?
写真?

『本って?』

『ほら、風俗情報誌ってあるじゃん? あれのオススメ風俗嬢を見て』

『へ、へぇ……』

藤原か。
勝手に人の写真を使うなんて信じられないな。

プライバシーなんてあったもんじゃない。

『気に入ってもらえて嬉しいです。 今日は特別に頑張っちゃいますね!』

後でとっちめてやらなくちゃ。
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