空色(全242話)
ピンク色のマンション。
美香は、そこから車に向かい走ってくる。
『ごめーん! 寝坊しちゃった』
そう言って後部座席に乗り込み、深呼吸で呼吸を整えた。
『平気ですよ。 まだ時間まで余裕ありますから』
幸成はそう言って、また車を走らせる。
バックミラーで見える幸成の顔は笑顔だった。
さっき私にあんな事をしておいて、よく平気な顔が出来るものだ。
ある意味、感心してしまう。
美香のマンションから約8分。
BabyDollが見えてきた。
また「今日」が始まる。
『おはようございまーす!』
美香は店内に入ると、受付にいる藤原や、他の黒服達に挨拶をした。
『おはよう、美香ちゃんアユちゃん』
藤原はそんな美香を見て満面の笑みを見せる。
例えば、美香が幸成に特別な感情を抱いている事。
それを藤原が知ったらどう思うだろうか。
あの満面の笑みは消え去り、怒りで※狂者のようになってしまうだろうな。
(※気の狂った人)
そう思えば思う程、幸成という存在は厄介(ヤッカイ)だ。
『アユちゃん。 着替え済んだら部屋で待機しててねー。 早速、指名が入ってるから』
去り際にそう言う藤原。
もう指名か。
今日はペースが早いな。
『やっぱアユすごいよねー! そのうちNo.1になっちゃったり』
美香はそう言って笑う。
不思議な程、いつも通り。
逆に対応に困ってしまう。
しばらく口を聞いてもらえない覚悟でいたのに。
『やっぱ、アユが一番可愛いもんね! 私ずっと思ってたんだぁ』
私より2歩先を歩く。
真っ白な手が歩きに合わせ揺れていた。
『美香』
私は、その手を握ると口に出した。
『ごめんね……』
精一杯の謝罪を……