空色(全242話)

それは今から20数年も前らしい。
今のオーナーが若い頃。

って、オーナーは今いくつなんだ?
40代半(ナカ)ばかと思っていたが、もしや50代なのか?

人は一定の年齢いくとわからなくなるものだ。

『今の藤原さんみたいな地位だったんだろうね、オーナーは』

とにかくオーナーの若い頃。
とても綺麗で、誰からも好かれる娘(コ)が、この店にいたらしい。

なんでもまだ店名がBabyDollじゃない時代の事だ。

『もちろん、オーナーもその女が好きで言い寄ったんだけど、結果は惨敗。 その女には好きな男がいたんすよ』

幸成はそこで一旦間を置くと、また煙草に火をつけた。

この煙草が果てるまで。
それまでに話は終わるだろうか……

『その男ってのが黒服として働いてた同僚だったらしいね』

それはまるで早苗と信吾くん。
あの2人を過去に重ねていたのか。
だとしても酷すぎる。

『オーナーはあーゆう性格でしょ。 無理矢理にでも手に入れちゃったらしいっすよ?』

『無理矢理?』

『そりゃ、レイプまがいな事したんでしょうね。 それが運悪く妊娠しちゃってさ。 さすがに俺でも中出しは避けるのに』

フハッと笑うと幸成は私の肩をポンポンと叩いた。

だから馴れ合うつもりはないし。
「俺でも」とか言うなっての。

『もういいや。 ありがと』

幸成の手を払い退け立ち上がる。
これ以上話していたって余計に苛々するだけだ。

やはり、この人を好きにはなれない。

『待てって、こっからが本番だって。 オーナーとその女のラブストーリーはさ』

他に何があるって言うんだ。
もう十分だよ。

『その女。 できた子供をどうしたと思う?』

そんなの気にならない。
と言えば、嘘になる……
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