空色(全242話)

もう昔話は十分だと思った。
オーナーに共感できないし、むしろ怒りが込み上げるだけだ。

そう思ったのに。
「子供」は気になった。

『その子供は無事に産まれたらしいよ。 その女と黒服の間で』

『黒服?』

でも黒服の男は、父親ではないじゃないか。
それでも受け入れたという事?

『自分の子じゃないって知ってて、産ませたらしいっすよ』

『凄い……』

本当に凄い。
とても優しいお父さんだったんだろうな。

お母さんも綺麗で、子供は今も幸せにいるだろうか。

『でもこの店が、BabyDollに変わると同時期に、二人とも死んでるんすよ。 そんで子供はオーナーが引き取ってる』

『……え?』

『まぁ、女は自殺。 男は行方不明だけどね。 どう思います? この偶然』

どう思う?
そんな事言われてもわからない。

頭が混乱して上手く処理できない。

自殺?
行方不明?
本当に?

殺されたんじゃないの?
その思いが拭えない。

店がBabyDollに変わる時。
それはオーナーじゃなかったオーナーが、正式にオーナーになった時。

わからない。
何で同時期なんだ?

そして何故、オーナーが子供を?

『ま、ただの噂ですけどね。 忘れてください』

とっくに火の消えた煙草をポンと地面に放り、幸成は足音と共に去ってゆく。

私が甘かった。
オーナーの昔話で、少しはオーナーを理解できると思っていた。

無駄だったよ。
理解どころか、怒りと疑惑。

恐怖心が増したよ……
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