空色(全242話)
十和によって乱れた髪を直し、ベッドへ戻る。
『シャワールーム行く?』
しかし座る間もなく、シャワールームを指定され、2人でシャワー室へ入った。
カメラを意識して会うのも、もう慣れたものだ。
問い詰められたら「マットプレイの好きなお客さん」と言い訳すればいい。
最初あった不安も、今は全くと言っていいほど無かった。
『アユ。 見てみなよ』
シャワールームの床に座ると同時、十和は私に携帯を差し出した。
『う、わぁ』
画面には真っ青な空。
そして海。
足元は砂浜が広がっていた。
どんなに有名なカメラマンが撮った写真よりも、私には価値あるものに思えた。
『今日の写真。 昨日のアユ、元気なかったからさ』
『わざわざ行ってきたの?』
『車であっという間だよ? 今度行く?』
さりげなく誘うのが上手くなってきたな。
最初は遠慮気味だったのに。
『見たいから行く』
仕方ない。
誘いにのってやるか。
『やった!』
と、突然上がる声に驚いて顔を上げると、まるで子供のように無邪気に笑う十和が。
こんなくだらない事で喜んでくれるのか。
『癒し系だよねー、十和って』
それはそれで、こっちも嬉しい。
『それはアユでしょ』
『私? ないない。 冷たい女だよー、私』
冷たい女だけど、少しでもオーナーを理解できたらと思った。
だから幸成の話を聞いたし、聞けば自然と理解できるものだと思ってた。
『わかんないんだよねー、私。 人の気持ちとか辛さとか』
でも駄目だった。
だって私は人を好きになった事がない。
オーナーのように罪を犯してまで欲しいと思った人なんて、いないんだから。
『ホント駄目なんだよね、私って』
もちろん美香の事も、まだ納得できないでいる。
私も一度、恋をして学ぶべきだな。
『ま、俺も駄目な男だけどさ。 話してみる?』
膝に顔を伏せていた私に十和の温かい手が触れた。
髪を撫で耳にかける。
その手をすかさず払い、手で耳を隠す。
見られたくない。
こんな赤い耳。
十和にだけは……