空色(全242話)
今まで誰かに頼ったり、縋(スガ)ったりした事なんて無かった。
それを弱い事だと思っていたし。
恥ずかしく思っていた。
『聞いてくれてありがとう、十和』
人に打ち明ける事が、こんなにも晴れた気分になれるなんて、知らなかったんだ。
私が思っている事。
通ってきた道。
そして今から選ぶもの。
間違っているのか、当っているのか。
それはわからないけど、すごく肩が軽くなった気がした。
『俺で良かったらいつでも聞くから』
温かくて大きな手が私の頭を包む。
その手に安心してしまう自分。
そんな自分がいる事に、もう驚きはしなかった。
いつの間にか十和は、心許せる存在になっていたのだから……
『お疲れ様です』
十和の背中を見送った後、休憩室前で幸成に声をかけられた。
『指名入ったんで知らせに来ました』
幸成は壁に肘(ヒジ)をつくと、不敵な笑みを見せる。
『どうも』
そんな幸成とすれ違おうと踏み出した時だった。
肩を掴まれ、壁に打ち付けられる。
ビリビリと痺れるような痛みが背中に広がった。
『あの若い客、よく来んの?』
ぼそぼそっと聞こえる低音。
音が作る振動が耳を揺さ振る。
『常連さん。 それが何か?』
私は冷静に答えられているだろうか。
顔は引き攣っていないか?
少しでも表情を変えれば、幸成は十和を怪しむだろう。
それだけは避けなきゃいけない。
本能的にそう思った。
『常連、ねぇ』
フッと幸成が笑う。
その笑みの意味は一体……