空色(全242話)

1つ、2つ、3つ。

守りたいものが増えていく。
それがすごく恐かった。

人は大切なものを手にして弱くなる。
現にそうでしょう?

美香に出会う前の私は、今より遥かに強かったんだもの。



『今日はありがとう。 満足してもらえるように頑張りますね!』

幸成からの伝達を受け、向かった個室には、初めてみる男の人がいた。

歳は40くらい。
会社でストレスでも溜まるんだろうか。
側頭部に10円ハゲ発見。

『可愛いね、君。 雑誌で見たより実物のがいいよ』

雑誌?
ああ、あの例の情報誌ね。

すごい宣伝効果だな。

『ありがとうございます。 こちらは初めてですよね? 簡単に説明しますね』

笑顔で軽く流し、ベッドに座る。

初めての客にはとりあえずシステム説明。
といっても、本番行為以外は基本的にOKなのがBabyDollなのだ。


『ここまでが、基本のサービスになります。 あとはオプションで相談になりますね。 例えば』

『あー、いいよいいよ』

説明を進めていく私の太股に、男の手が乗る。

『好きにやるから、あとで加算しといてよ』

そして下着の中に……

たまにいるんだよね、こーゆう奴。
本当、勘弁してほしい。

『アユちゃんの胎内(ナカ)、きついね…… こういうの始めたばかり?』

気持ち悪……
つーか指入れ有料だっての。

説明も聞かないで好きにやるってさ。
一体どんだけ金使う気?

うちは優良店なんかじゃないんだから、オプション結構高いよ?

『ね、、声我慢しなくていいんだよ?』

男の、鼻にかけたようなだみ声が耳を掠める。

今、声を出したら駄目。

きっと、一緒に涙が出てしまう。
声だって、泣き声しか出ない。

あんた、きっと萎(ナ)えてしまうもの。



慣れたつもりだった。
体を売るのも、演技するのも。
上手くなって強くなった気がしてた。

『……ぅ……ッ』

でも決して強くなかった。
貴方の声、笑顔、言葉を思い出すだけでこんなにも悲しくなる。

【朝一で行こうな】

私、また1つ弱くなったよ……
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