空色(全242話)
不覚にも幸成の運転に心地よさを覚え、私の寝たふりは本格的な眠りになってしまった。
次に目が覚めたのは美香のアパートを過ぎた頃。
『本当に降りなくてよかったの?』
幸成の声が車内に響く。
『うん。 アユの後で送ってね?』
続いて美香が喋る。
眠る前、私の隣にいた美香はいつのまにか助手席に。
そうか。
一度、自分のマンションで降りて、また乗ったのか。
私のために……
以前から美香はそうしていた。
タクシーで居眠りした時も、こうして回り道をしてくれた。
お節介というか何というか……
私が大好きになった美香のまま。
幸成に恋をしていても、美香は何も変わらない。
その事を再度実感すると、急に胸のつかえが取れた気がした。
『そうだ。 美香ちゃん明日休みだよね』
『うん。 明日からしばらくね』
2人は私が起きた事に気付かないまま、話を続ける。
起きるべきか寝たふりか。
迷いに迷って寝たふりを選択した。
どうせ起きていても話す事など無いだろうから。
『俺も明日休み。 どっか行く?』
『え? 私と?』
『そっすよ。 他に誰がいんの?』
クスクスと笑い声。
明日?
これはデートの約束?
『どこに連れてってくれるの?』
美香は幸成の横顔にそう問い掛ける。
『どこ行きたい? 美香ちゃんの好きなとこ行こっか』
駄目。
止めなきゃ。
美香を止めなきゃ……
そう思い美香の名を呼ぼうと、口を開く。
しかしその瞬間、目に飛び込んできたのだ。
『やった! 遠乗りしようよ! お店にバレないように』
美香の極上の笑みが……