空色(全242話)
『ありがとう』
寝たふりをし続け、車はようやくアパートの前に止まる。
御礼を言い、冷たく黒いアスファルトに降り立った。
『明日は他の者が来るんで。 外に出ててくださいね?』
幸成はそう言って、不敵な笑みを見せた。
寝たふりだと気付いてるんじゃないか?
そう思わせるような表情だった。
『バイバーイ!』
助手席から美香が満面の笑みで手を振ってくれる。
『……バイバイ』
なんて幸せそうだろう。
明日、幸成と会うから?
美香は仕事で私に会うより、休みに幸成と会う方が嬉しいのかな。
……なんて、思ってみたり。
コンコンと床を歩く音が、アパートの外通路に響く。
自分の部屋の前まで来た時、鞄の中の携帯が、ブブブブとその身を震わせた。
《メール着信:十和》
何の用だろう。
さっき店で会ったばかりなのに。
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from:十和
subject:お疲れ~
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あんま自分を悪く言うな
よ
お守りがわりにコレあげ
る
-添付ファイルあり-
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絵文字も顔文字も無い素っ気ないメール。
でもそれだけでも、十分に嬉しかった。
お守り代わりの添付ファイルは真っ青な空と海。
画像の隅っこには、画像編集で付け足したと思われる文字。
【ここに行こうな】
思わず笑ってしまった。
『演出クサすぎだってーの』
十和らしくて、ほんと笑っちゃう。
こんなの今時、誰もやんないし。
あんたドラマか漫画の男かよっての。
『馬鹿十和』
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to:十和
subject:Re:お疲れ~
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古いし、その演出
そんなんじゃモテないよ
~?
…ってのは冗談で…
早く連れてってよね
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