おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー


二階へ上がる螺旋状の階段は、玄関からまっすぐ伸びた廊下の突き当たりにある。
ぎし、ぎし、とよく鳴る階段の音。小学生の時、達久とわざと階段の上で走り回ってたくさん鳴らして笑い合った。


この階段を今は一人、できるだけ音を立てないように上がる。
それでもひしゃげた猫のようにきいきいと階段は高い音を立てて、私は達久に聞こえませんようにと願う。


上りきると、またまっすぐと伸びる廊下。
廊下の左手は一面吹き抜けになっていて、下を覗くと一階のダイニングルームで晴子さんが紅茶を淹れているのが見えた。
広いダイニングには片手じゃ足りないくらいの人数が座れる大型のソファと、それの対になってテレビが置かれている。
そこにまるで大きなモップのように寝そべるゴールデンレトリーバーの『井上さん』がいる。最初はふざけた名前だと思ったけれど、そう思ったのももう10年以上前の遠い記憶で、今は名前が口に馴染んでいるのだから恐ろしい。


そして廊下の右手には四つ扉がある。一つ目はトイレで、四つ目は納戸なのだが、真ん中二つ、それが問題だ。


私の記憶が正しければ三つ目の扉が私の部屋であるはずだ。
つまりどうしても……二つ目の扉、達久の部屋の前を通らなければならなかった。


そろそろと歩いてそっと二つ目の扉の前を通り抜ける。
音を立てないように三つ目の扉を開くと一気に中に滑り込んだ。


暗い中、右側の壁をまさぐって電気をつけると、ようやく一息ついた。


……私は、何をしているんだ。


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