おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー


さっきあんなに、気まずいのはむしろ達久のほうだ、なんて思っていたのに。
結局避けているのは私で、これじゃあ私が悪いことしたみたいじゃない。


むしろ、もっと堂々としたっていいんじゃないか。


私は悪いことなんてしてない。


たしかに、あのキスのあと、申し訳なさそうに近づいてきた達久を数回無視したことはあった。
でも、でも、それは仕方ないじゃないか。
私には正当な理由があってあの子を無視したんだ。


もう話したくなかったんだ。


あの旅で、あんな辛いことがあったあとで、達久は私に勝手にキスをした。
そんなのは私に対する裏切りだ。
そんなことされて、あの時の私が許せるわけなんかない……。


「でもこのまま話さないなんて普通ムリだよね…」


この家に厄介になるのに、晴子さんや文雄叔父さんに余計な心配はかけたくない。


それに、達久は、きっと私に謝ろうとしてくれた。それも何度も。
けれどその度突っぱねたのは余りに大人げなかったかもしれない。


仮にも私は二歳も歳上なのだ。あれから随分と時間も経っているし、もしかしたら良い機会なのかもしれなかった。


荷物の整理もひと段落ついて、そろそろ一階に降りて晴子さんとお茶でもしようかな、と思ったその時、今まで静かだった隣の部屋でガタリと音がした。


そこでようやく、達久が隣の部屋に今いるのだということを実感する。


「……もう、時効だって」


自分に言い聞かせるように呟いて、意を決して私は廊下に続く扉を開けた。
達久に会いに行こう。
そして、仲直りするんだ。


彼と話さなくなって二年。
彼が私に話しかけようとしなくなって一年と半分。
彼を間近に感じるのも、随分と久しぶりの事だった。

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