おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
コンコン、と扉を叩く。
実はノックするまでに彼の扉の前で両手で数えても足りないくらい、深呼吸している。
「達久」
自分の声の中で、一番大人びた声になるように彼の名を呼んだ。
私は二年前もこんな声だったろうか。
もしかしたら違うかもしれない。女も声変わりするのだと、そんなことをどこかで聞いたような気がする。
「ちょっといいかな」
続けて声をかけてから、胸が絞られるようにきゅうきゅうとした。こんなに緊張したのはいつぶりだろう。
どれくらい待ったのか、永遠に近く感じられたそれも、きっと数秒に満たない。
唐突に開いた扉から、彼の顔が覗く。
「……入って」
いつの間にこんなに背が伸びたんだろう。遠目では見ていただけでは分からなかったが、並ぶとその差は容易に分かる。私と同じ身長だった二年前と比べて、今は頭ひとつぶん、達久が抜けていた。
昔とは違う、綺麗な銀縁の薄いフレームの眼鏡。
その奥から注がれる私への視線は、昔ほど雄弁に彼の感情を伝えてはいなかった。
「ありがとう」
お礼を言って、達久に続いて部屋に入る。勉強でもしていたのか、机の上のライトを消して、達久はイスに腰掛けた。
横顔を盗み見て思う。
もともとお利口さんな綺麗な顔立ちだった達久。面影はそのままだけれど、それにゴツゴツとした男らしさが加わって、いくら二つ年下といっても高校のクラスメイトとさほど変わらないくらいには大人びていた。