おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「……達久が、何度も私に話しかけようとしてくれてたの知ってる。謝ろうとしてくれてたんだよね。
私も大人げなかった。もう、二年も経ってるもん、許せるよ」
目の前で膝間付いて、私と視線を同じくする達久の頭に、ぽんと手を乗せた。
昔みたいに、かつての可愛い従兄弟にするみたいに頭を撫でる。
「無視してごめんね。……あのキスは忘れる。無かったことにしよう」
瞬間、なんの色も無かった達久の瞳に、ゆらりと何かの感情が見えた。
え、と思ったときにはもう、撫でていた手をパシンと撥ね付けられていた。
「っ痛」
「……んだよそれ」
「達ひ……」
「そうやってまた、ミコ姉は俺の感情ごと無視するんだ」
揺らめいたのは怒りだった。
睨みつけられてやっと、彼が今までに無いくらい感情をむき出しにしているのが分かった。
「ミコ姉なんか大嫌いだ」
そう言って、立ち上がったかと思うと、達久は私を怒りのままに突き飛ばした。
声を上げる間もなくベッドに叩きつけられて、見上げると達久が上にのし掛かって来たところだった。
「や、やだ!なに?やめて達久!」
「……そんな声荒げたら下の母さんに聞こえるよ」
押し倒された格好のまま、じっと冷たい視線にさらされて泣きたいような気持ちになった。
達久は今まで私が痛がることはしたことが無い。優しい、優しい、私の従兄弟だったはずだ。
……こんなの、達久じゃない。