おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「ほんと達久も変わったね、実感するわ。前まで嫌味なんか私に言ったことなかったのに」
「そりゃ、どーも」
「……でもさ」
少し触れた肩は、霧のような雨のせいでお互いシャツが湿って、けれど代わりに優しい体温を伝えてくる。
「傘がないなら、一緒にいれてあげたい。雨の中ひとりで買い出しさせて、重い荷物持たせたくない。
それって、目の前に達久がいたら、普通に思う気持ちだよ。いくらあんたに嫌なことされて、許せなくて嫌いだって思ってもさ、ずっと一緒にいたんだから、それくらいの情はまだあるんだよ」
触れ合う肩が思っていたより温かいように、私の心だって思っていたよりはるかにまだ、彼への情が残っていることに今更気付く。自然と口をついて出た台詞だったけれど、それはよく今の気持ちを表しているように思える。
……これは達久にも言えることだ。
「昼間、達久だって私に重い荷物一人で持たせるの心配してくれたでしょ。それだって、私と同じじゃないの」
横にいる達久を見上げた。
声質も、一人称も、身長も、性格も、私の大好きだった従兄弟の姿とは大分変わってしまったけれど。
それでも彼が彼というだけで、家族に対する気持ちと同じ、変わらない情がある。
これは血が繋がってるからこそ、無くならない感情なのかもしれなかった。
「……悔しいけど、ミコ姉の言うことわかる気がする」
「よしよし、素直でよろしい」
私から目を逸らしてぽつりと呟く姿は年齢相応で、大人っぽく見える達久よりもこちらの方がホッとする。久しぶりに前のように素直な達久を見た気がして、雨だというのに日が差したような心地がした。