おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
けれど事件は起こるもので、7月も二週目をすぎたころにそれは起こった。
木曜日の昼休み、再来週から夏休みだというのにまだ梅雨もあけない曇天を見上げながら頼子とパクチー談義をしていたときだった。
「……山桐(やまぎり)さん」
ちなみに私の苗字は山桐である。それこそ達久にとっては大好きな桜川モスコミュールの小田桐と苗字が似ているとかで昔は羨ましがられたこともあった。……それは置いておくとして、呼ばれた方をみると、そこには今まで話したことのない隣のクラスの美少女がいる。名前までは知らない。
「えっと……」
どうしてうちのクラスまできて私に話しかけたのだろう。探るような目をして見つめると、彼女はぺこりと頭を下げてくる。
「佐和田悠里(さわだゆうり)っていいます。隣のクラスの」
「あ、そうそう佐和田さん」
言われてみればそんな名前が体操着にプリントされていたのを、合同で体育をしたときに目にしていた気がする。すると彼女はにこっと笑って、少しいいかな、と聞いてくる。何が何だかまだ分からないけれど、とりあえずいいよと返すと、近くにあった椅子を引っ張ってきて私と頼子の間にすとんと納まる。
頼子が何この女と口をパクパクさせて訴えてくるけれど、そんなの私だって知らない。
真近で見ると、頼子が美人系であれば佐和田さんは可愛い系の美少女だった。
コテでくるくると巻かれた色素の薄い長い髪の毛、ぽってりとした唇と、ぱっちりとした綺麗な瞳。スカートから伸びる太ももは、私や頼子より10センチは出ていて、なんとなく美に気を遣っている様子がうかがえる。