おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「……来週の期末テスト、確実に出るヤマ、先生に聞いてきた」
「まじか!?」
「赤点だけは免れるマニュアル作ったんだけど欲しくない?」
赤点は平均点の半分、だいたい30点前後を意味するが、赤点以下だった者には夏休みに補講と言う名の休日出勤が待っているのだ。正直これだけはなんとかして免れたい、というのがこの学校に通う学生の共通認識である。
貰えるもんなら貰っておきたいのが本音だ。
「美琴ぉ、佐和田さん可哀想だよう、協力してあげてよう」
隣で舌舐めずりをしながら私をブンブン揺する親友はそういえば頭の出来は悪かったと思い出す。
「ちなみに今なら学年一位を独走中の田畑くん直筆テストノートつき!」
「やりましょう」
気付いた時には立ち上がって佐和田さんーーいや、悠里と固く手を握り合っていた。
困った時にはお互い助け合わなければならない、それが人間としてあるべき姿だと私は思う。
かくして同盟は交わされ、私と悠里は連絡先を交換しあった。
ちなみにひとりだけ何もせずに甘い汁を吸うつもりの親友には後日何か奢ってもらうことにする。
悠里と別れたあとで、幸せそうに油淋鶏を食べる頼子を見ながら、はて何か忘れているようなと思う。
(……受験生に女の子なんて紹介したら、もしや受験失敗するのでは……?)
そしたらなし崩し的に達久はうちの高校へ進学、同居生活も一年継続、気まずい生活も長期戦になる……?
「……ま、勉強頑張って貰えばいっか」
それより目先のマニュアル本のほうが大事な私は、その後楽しく頼子との昼食を再開したのだった。