おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「そんなことよりテスト近いんだから勉強しなよ……」
「いや、むしろテストのためにいま私は聞いてるんだけど」
呆れられて、つい本音が口に出てしまう。慌てて口をつぐむも、
「……テストに源氏物語でも出んの?」
そんな解釈をされて、これ幸いと乗っかった。
「そうなのそうなの、恋する気持ちをね、聞こうかなーなんてね」
「ふうん」
「でも私に嫌がらせにキスしてくるぐらいだし、そういうの慣れてるんでしょ、達久。
モテるって聞いたよー」
ぺらっと溢れた言葉。言ってしまった後でやっちゃったかも、と思う。というか、目の前右側にはベッド、左側には達久。否が応でもこの前のことが蘇ってきて、あたしってばなんで自分から地雷踏みに行っちゃったんだと後悔する。
チラリと達久を見る。
プリントを手に持って、立ったまま私を見つめている彼が、何を考えてるかなんて分からなかった。
「……慣れてない」
「え?」
「あんなこと、ミコ姉としかしてない」
「そ、そうなの……?」
「好きな子にはモテないから、俺は」
自嘲気味に笑った達久が、なんだか私より大人みたいにみえて、分からないけど胸がちくりと痛んだ。
まるで恋の痛みを知っているような笑い方だと思った。事実そうなのかもしれない。
私が知らない感情を達久は知っているーーそれが置いてけぼりをくらったようで、なんだかとても嫌だった。