おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「ミコ姉ってほんと、いつまで経ってもガキくさい」
「達久に言われたくないよ、まだ中学生のくせに」
「そうやって見くびってたら今に痛い目見るよ」
次の瞬間、私のキリンにアルパカがキスをした。
はっとして顔を上げると、したり顔の従兄弟。あの状況をぬいぐるみで再現するなんて、この男には恥じらいというものがないのだろうか。
「……趣味わる」
「おかげさまで」
「ていうか、好きな子いるのによく私にあんなことできたね」
もう飽きた、とばかりにキリンを達久のほうに押しやって、代わりに彼を睨む。
眼鏡の奥から楽しそうに覗くその目が気にくわない。
「ミコ姉とのキスなんてノーカンでしょ」
ノーカウント。
そんなこと言われて、さすがに少し怒りたくなった。
「わ、私にとっては二年前のは初めてだったし、この前のは二度目だったの。女にとって初めてってすごい大事なんだから。
……達久にしてみたら、一回目のキスは同情で、二回目はただの嫌がらせだったんだろうけど……」
「そんなこと、俺いつ言ったっけね」
「言われなくても、達久があんなことした意味くらい分かる」
「ふうん。……ミコ姉、俺のことなら何でも分かるもんね」
懐かしい台詞に驚いて、一瞬言葉を返すのが躊躇われた。それは幼い頃、繰り返し私が達久と交わした言葉だった。
『達久のことなら、ミコは何でも分かるんだから』。そんなふうに、達久が何を考えてるかなんて、息をするのと同じくらい当たり前に感じられた時期があった。
もうきっと、自信を持ってそんなことを言える日は二度と来ない。
それくらい私たちの間には、いまや見えない隔たりがある。それは話してない二年間が仮に無かったとしても、同じことのような気がした。