おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「あのさ、後からなんで言わなかったのって言われても困るから言うんだけど」
「うん?」
「達久、別に好きな子いるらしい」
言った瞬間、悠里はまるでこの世の終わりが来たとでもいうように肩を落とした。ずうん、と沈む音が今にも聞こえてきそうなその様子に、頼子と顔を見合わせた。しまった、やってしまった。
「……や、でもその子に告白とかはする気ないみたいだし、望みもないわけではない…かも!」
慌てて背中を叩いて喝を入れてみる。
するとぶんっと頭を上げて、そうだよね!となんとか悠里は持ち直す。頑張るよ!と言っている姿がなんとなく微笑ましい。
思ったよりも健気に達久を想っていることが伺えて、なんだか少し安心した。
「ちなみに美琴の従兄弟のどこが好きなの?」
「顔っ」
えへへ、と屈託無く笑った悠里に、今度はがっくりと私が肩を落とす番だった。
「あ、ねえ、デートのほうは?」
「一応オーケー出たよ。私が達久を連れ出して、バッタリ出くわせばいいんでしょ?」
「うん、そうでもしなきゃ達久くん、私とデートなんてしてくれないもん。
当日は適当にサッカー部の男子見繕って行くからさ、美琴はそっちとよろしくやってくれればいいよ」
「え、なにそれ聞いてないっ」
ということは、ダブルデートみたいになるということだろうか。
そんないきなり会った男子と楽しくおしゃべりできるほど私はコミュ力高くない。
「別に男子とかいいよ!」
「まあまあ、そっちのほうが段取りいいからさ、嫌になったら帰ってくれていいし」
「ええええー」
絶対に当日は憂鬱になっていることが今から予想できる。
本当に、昨日いきなり現れたくせに勝手な女だ。
「デート、感想聞かせてねー」
けれど悠里よりも、ひとり弁当を食べながら悠里が持ってきたテストの資料を我関せずと読む頼子が一番勝手な女である。