おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー


「それって俺と行かなくちゃ駄目なもの?友達と行けばいいだろ。……つか、仲良くするフリなら行かなくていいじゃん」


「そ、れは」


痛いとこを突かれて口を噤む。
そういうわけじゃない、と声をあげたかったけれど、そうしたら理由を聞かれてしまう。達久と悠里をくっつけようとしてるなんて言えるわけがない。


「それか、俺とほんとに仲を戻したくなった? 二年前の、いつも一緒にいたころみたいに」


「……っ」


「ミコ姉が、俺に必要最低限の優しさをまだくれることには納得したけど、……あんなことされたのに、こんな風に自分から近付いてくるなんて思わなかった」


それとも、と彼は言う。


「……それとも他に、俺に近づく理由でもあるの」


もしかしたらとっくに彼は、見破っているのかもしれないと思った。
付き合って欲しいとこがあると言ったあの時も返事をもらうまで妙な沈黙があったし、現に今だって含みを持った視線を向けて、私から本音を聞き出そうとしている。


昔から嘘をつくのは苦手だった。
特にこの男は、いま、私をよく観察している。


頼子のように、私の気持ちを推し測ろうとして観察しているのではない。
達久は、推し量るまでもなく私のクセやパターンを事細かに知っているのだ。それは昔からの蓄積であり、経験だ。だから、少しのクセで私が今嘘をついているかどうかなんて簡単にわかってしまう。


幼馴染とは、私にとっての従兄弟とは、そういう厄介な相手でもある。


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