おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー


言った言葉は戻ってこない。
さっきまであんなに暑かったのに、その事実が、体温をどんどん下げている。


「……分かってたよ、そんなこと」


ぽつりとこぼされた言葉が悲しくて、自分で傷付けたのに、どうしようもない後悔しか湧き上がってこなかった。


「どうしても、理由は言えないんだ?」


聞かれて、こくりと頷く。
一緒に出掛けたくないのに、わざわざ誘ったということは、何かあるといっているのと同じだ。
含みがあるとバレてしまった以上、断られるかもしれない。
……悠里には謝るしかない。


でも、それでいいような気がした。
傷付けただけでなく、行きたくない場所に達久を無理矢理行かせることが、いまはとても心苦しい。


「……今回だけなら」


黙っていると、そんな言葉が上から落ちてきて驚いて顔を上げる。


「……え」


「なにをそんなに驚いてんの。……行くって言ってる」


「だ、だって、何かあるって言ってるようなもんなのに、なんでいきなり行こうって思ったの…!?」


さっきまで含みがあるなら行きたくないと言っていたその口で、今度は行くと達久は言う。
どうしてそうなったのかまるで分からなかった。


「どうしても理由を言わないのに、俺と一緒にいるのだって嫌なのに、頑なに誘ってくるってことは……俺が行かなきゃミコ姉、困ることになるんじゃないの」


その言葉に目を見開いた。


< 57 / 77 >

この作品をシェア

pagetop