おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「……そんなにくっつかれてたら、うどんも選べない」
喉の奥で、くつりと笑った音がした。
ピタリと背中にくっついていたから、その振動も自分のことみたいによく分かる。
「選ばなくても、赤いのでいいじゃん」
「緑のも俺は気になるの」
「じゃあ間とって黄色のにしたら」
「それじゃカレーうどんになっちゃうだろ」
こんな他愛の無い会話だけ、していられたら良かった。
なんのわだかまりもないまま、ずっと。
あのキスだって、一回目も二回目もぜんぶ水に流せたら、こんな時間だけ過ぎていくのだろうか。
それは出来ないと分かっているけど、願わずにはいられない。
せめて一緒にいられるあと少しの間だけは、もうこの従兄弟を傷つけたくない。
私の言葉で彼を傷付けるのは、彼のキスで私が傷付いたのと同じくらいーーいや、もしかしたらそれ以上に悲しかった。