おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
夕食も食べ終えてひと息ついた頃、思い出したように達久が言う。
「あ、母さん。俺とミコ姉、明日夕飯要らないから」
「あら、どっか行くの」
「諏訪神社の夏祭り」
「ああ、もうそんな時期なのね」
明日の日付は7月21日だ。
暦に目を向けた晴子さんにつられるようにカレンダーを見上げて、この家に来てから3週間が経っていることに気がついた。
「ミコちゃん、浴衣出してあげよっか」
「え、いいよいいよ、気にしないで」
というか、むしろ明日は悠里を引き立てるためにも普段着で行ったほうがいいと思っていたくらいなのだ。
けれど晴子さんはウキウキした調子で奥の和室に入っていってしまう。
「ミコちゃん、おいでー」
困ったように達久を見るも、諦めれば、と目が言っている。
「ほら、白に赤帯も可愛いでしょ。でも高校生だし、紺帯で締めた方が大人っぽいかしら」
とうとう和室から顔を出して、引っ張り出した浴衣を掲げ始めたものだから、慌てて晴子さんの待つ和室へ行く。
「昔、ミコちゃんが着てた浴衣もあるけど、もう小さいからね。私の浴衣のほうが丈も合うでしょ。ほら、たくさんあるのよ」
箪笥の中から覗く、色鮮やかな浴衣に思わず顔が綻んでしまう。
晴子さんの言う通り、ざっと見るだけでも片手じゃ足りない数の浴衣が綺麗に並んでいる。
「この白地に紺の桔梗柄も可愛いでしょ。ミコちゃんだったら、この紺地に椿柄も似合うかもね。あら、金魚柄の浴衣、こんなとこにあったのねえ」
どんどん楽しくなってきたらしい晴子さんにつられて、私も気になったのを取り出して眺めてみる。
「それも素敵でしょう。牡丹柄は、若い子に人気よね。幸福祈願の意味があるのよ」
「浴衣の柄に意味があるの?」
尋ねると、ふふ、と得意げに晴子さんは話し出す。