おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「そうよ。椿とか蝶は長寿って意味があるし、梅は冬をじっと耐えるから忍耐力がある、なんて言われてるわね。百合は純粋無垢だったかしら。
あ、そうそう、牡丹柄はね、ほかに上品で美しいひとって意味もあるの」
「へえ、じゃあミコ姉は牡丹柄だけはやめた方がいいね」
いつからいたのか、後ろで私たちの様子を眺めていたらしい達久がそんなことを言う。本当にろくなことを言わないから、相変わらず可愛くない。
けれどコンビニの一件があってから、私の中で彼を見る目が少しだけ変わったような気がするのだ。
それははっきりと口に出して言えるものではなくて、胸の底に流れる感情の波が緩やかになったような、優しい変化で。
達久のほうも、私を傷付けたことを自覚した、と言った通りに前よりも私への風当たりが和らいでいるような雰囲気だった。私が家に来たばかりのときよりも、纏う空気が柔らかい。
「いいでしょ、私は幸福祈願のほうの意味で着るんだから」
そう言って頬を膨らませると、呆れたように晴子さんが達久を見上げた。
「他人事みたいに言ってるけどね、達久。あなたも着るのよ、浴衣」
「え、俺が?」
驚いた表情の達久を見て晴子さんはニヤリと笑う。そして達久が嫌だというよりも早く「二階の納戸にお父さんのがあったのよね」と階段を上っていった。