おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
「……やーい、ざまーみろ」
「ミコ姉、小声で言ってもちゃんと聞こえてるから」
小学生かよ、という突っ込みは華麗に聞かなかったふりをして、私は並べられた着物をもう一度ひとつひとつ見ていく。淡い色合いの金魚柄、大人っぽい竹柄も捨てがたい。
そうして全部を見終えても、パッと一目で目に付く赤い牡丹に心が惹かれた。
着たいのは白地に牡丹柄だけれど、私に似合うのは晴子さんが言う通り紺地に椿柄が入った、落ち着いた色合いの方だというのはなんとなく分かる。
常日頃から、良くも悪くも高校生には見えないと言われる。化粧なんかした日には会社員と間違われる始末だ。
私に、白に赤や桃色が混ざったような、可愛らしい色は似合わない。
「……白い方、着たいんじゃないの」
私の様子を見ていた達久が、隣に座る。
畳の擦れる音が静かな部屋に響いて、近くに達久の呼吸を感じた。
「よく分かったね」
「見てれば、ミコ姉が好きな方なんてすぐ分かるよ」
じっと至近距離で見つめられて、少しだけ居たたまれない。
そんなに私は分かりやすいだろうか、とぼんやり思う。
「でも似合わないから」
そう言って紺色の浴衣を手に取る。
さらりとした肌触りが心地よく、落ち着きのある色合いに、私はこっち側だ、と独り言ちる。
「そうやっていつも我慢するよね」
「……そうだったかな」
「そうだよ」
達久が言う“いつも”が、母親がいなくなってからの私を言いたいのだと、本当は分かっている。
でも、一番つらかった頃に比べたら、これくらい我慢のうちに入らない。
私自身のための我慢と、父のための我慢では、意味合いが全く違うではないか。