おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
次の日の夕方。
晴子さんに着付けてもらって、私と達久は家を出た。
6時を過ぎても、なお、空は明るい。
西の空を覆う雲が、鮮やかに橙に色付いて、覗く晴れ間も眩いほどの赤だった。
てんてんと燈る街灯も意味をなさないこの時間を、逢魔が時というのだ、と誰かの台詞が胸を掠めた。
からんころん、と履きなれない下駄の音を二人分響かせて神社への道を歩いている。
私たちの横を、小さな男の子と女の子がはしゃぎながら駆けていく。
ぎゅっとお互いを離すまいと握られた手と手に、たまらないほどの懐かしさを覚えた。
夢か現か分からない時間だからか、この二人がまるでかつての私たちのように見えたのかもしれない。
隣の達久もまた、目を細めて二人を見つめていた。
「二人だけで夏祭りに行くの、二回目だね」
達久と夏祭りに行っていたのは小学生のときだ。そのときは、ほとんど毎回、父か叔父が付いて来ていた。
けれどたった一度だけ、私たち二人だけで行ったことがあった。
「俺が小1のときだね」
「そんな昔だっけ」
尋ねると、そうだよ、と達久は答える。
よく覚えてるものだ、と思いながら、それでも私も耳にあの声が蘇ってくる。
『達久くんの手を離しちゃ駄目よ、ずっと、握ってるの。離れないこと』
心配そうに私の頭を撫でる優しい手。
あの夏が終わり、秋が来てーー母は私の前から去った。
だから達久の言う通り、あの夏祭りは私が小学3年のときだったのだろう。