おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー
泣き声が僅かに止み、頼子がトイレから出てきた。
泣き腫らした目は赤みを帯びて、いつもの彼女以上に弱々しかった。
ポンポンと頭を撫でて。
その日は初めて一緒に帰って、初めて頼子の笑顔を見た。
今考えると、一緒にいようかなんて、かなり上から目線で傲慢な言葉。けれどそれでも後悔していないのは、やはり頼子が笑ってくれたからだと思う。
あの日から頼子は、私を良く注意して見る癖がついたみたいだった。
最初は多分、嫌われないよう嫌われないよう、私の行動ひとつひとつを注視していたのだろう。
呆れた私が、嫌わないからそんなに私の行動に過敏になんなくてもいいのに、と言った頃にはもう癖になっていたようだ。
嫌わない、なんて 分からない。不確かな口約束は、けれど4年ずっと一緒にいることでほとんど確実なものになっている。
「そうだねー。頼子にだったら言ってもいいか」
そして彼女を見つめる。
ん?と不思議そうに首を傾げた頼子に私はとつとつと話しはじめた。
「うち、父子家庭じゃん」
「え?ああ、そうだったね」
「お父さん、今度転勤になっちゃって」
「え、いまの時期に?」
「うん、なんか新規のプロジェクトの立ち上げに関わるみたい」
「へー。確かに美琴パパやり手ってかんじだもんね」
どんなかんじよと笑ったあとで、じゃあ、と頼子は眉をひそめる。
「あんたも転校?」
その言葉にまさか、と首を振る。生まれてからずっとこの街に住んでる。
いまさら離れる気は無い。
「単身赴任。あたし来年受験だし、どうせ地元の大学行くから。お父さんも何年かで帰ってくるみたいだし」
「え、じゃあ一人暮らしじゃん。大丈夫なの?」
それがねー、と溜め息をつく。そう、問題はここからなのだ。